妊娠により、女性は体だけではなく、見えない「心境」も大きく変化します。しかし、何がどれだけ変化するのかを男性が理解し、サポートするには、
・奥さんの話をしっかり耳を傾ける
・ネットや本などを見て、自ら調べる
等、旦那さんの努力や行動が必要です。
ここでは、私の妻や患者さん(妊婦さん)から聞いた、妊婦さんがご主人に知ってもらいたい事をまとめてみました。
「妊娠中の妻をどう支えればいいのか分からない」とお悩みのご主人の参考にされば幸いです。
奥様が妊娠中の旦那様へ
奥様は、ご主人に一番傍にいて欲しいと思っている
奥様がご実家のお母さん(ご主人から見た義母さん)と仲が良かったりすると、
「俺よりも義母さんの方を頼りにしている」
と感じるかもしれません。
確かに、同性の親には何でも頼みやすく、わがままも言いやすいでしょう。しかし、生まれてくるお子さんの親は奥様とご主人の二人だけです。いくら実の母親が頼りになるとはいえ、嬉しいとき、つらい時、不安なとき、心細いときに一番そばにいて欲しいと思う相手は、母親ではなくご主人の様です。
奥様にとっては、妊娠が分かった時点で親になるための心の準備が始まっています。しかし、初めてのお子さんであれ、2人目以降であれ、今後の生活がどう変わってしまうのか、見えない不安に日々葛藤を繰り返しています。
ご主人も友達と遊びに出かけたり、飲み会に参加したいという気持ちはあると思います。たまには気分転換も大事でしょう。しかし、第一優先は奥様とお子さんにしましょう。
そして、奥様の話に耳を傾け、「奥様に向き合う」ではなく、「奥様と同じ方向を見る」という事を心がけましょう。そうすれば、きっと奥様は心穏やかに妊婦生活を送れるのではないでしょうか。
つわりについて
つわりには個人差があり、「殆どなかった」という方から、「気持ち悪さと嘔吐により、たった1ヶ月で体重が7キロ落ちた」等、本当に様々です。
つわりの主な症状はこちらです。
・嘔吐(吐き気)
・倦怠感(だるさ)
・めまいや立ちくらみ
・心理的不安定
・胃のもたれやむかつき
・眠気
・頭痛 など
個人差が激しいので、
・1日に何度も嘔吐する方
・嘔吐まではいかないが、吐き気、だるさ、めまいがひどい方
・見えない大きな不安に襲われて気持ちが上を向けない方
・どんなに寝ても眠い方
等、症状は様々です。
ご主人としては、症状が見えづらい分、理解しづらい部分もあるでしょう。しかし、ここでご理解いただきたいのは、奥様はだらけているわけではないという事です。
奥様のお腹の中では、約10か月かけて尊い命が育っています。これは、命をかけた一世一代の大仕事です。そのため、奥様の体の中では血の流れ、ホルモンのバランス、骨の形等、大きな変化が起こっています。つらくないわけがありません。
つわりは精神的な要素も大きく関わっていると言われています。
「主人が傍にいてくれるとつわりが軽くなる」
とおっしゃる妊婦さんもたくさんいらっしゃいます。
つわりの全てを理解するのは不可能かもしれません。しかしそれは、奥様が体の変化に苦しんでいる間、ご主人が何も変わらなくていい理由にはなりません。
せめて、奥様が今どういう状況で、何がつらいと感じているのかをネットや本で調べる等、理解しようとする努力を見せて、支えようと行動すれば、奥様の症状が軽くなるかもしれませんよ。
奥様に襲い掛かる3つの危機について
NHKの「あさイチ」で話題になり、多くの女性から共感を得た「産後クライシス」という本をご存じですか?この本の著者は、「赤ちゃんの誕生を機に、愛し合っていた夫婦にヒビが入るのはなぜか?」という疑問と理由を徹底的に解説しています。
その本には、このように描かれてあります。
「出産は女性の人生を大きく変えるイベントであり、産後は
① 身体的危機
② 精神的危機
③ 社会的危機
が同時に訪れ、女性自身も想像できないほど以前とは違った状態に追い込まれる」
どういう事でしょうか?詳しく見ていきましょう。
① 身体的危機
まずは陣痛の痛み。とある産婦人科医よると、人間が感じる中でもっとも強い痛みは、「指の切断」だそうです。しかし、陣痛・出産の痛みは、指の切断をはるかに上回る痛みだというのです。
特に初産の場合、20時間以上陣痛で苦しむ方も珍しくはありません。人間が感じる最も強い痛みを、丸1日以上、麻酔もなしにもがき苦しむのです。
そして出産後は、へとへとに疲弊した体を休める間もなく、授乳が始まります。赤ちゃんは1~3時間毎に起きてはおっぱいを欲しがります。当然、昼も夜も関係なく、エンドレスで続きますので、奥様は今まで圭慶したことがないほどの睡眠不足に襲われます。妊娠前にバリバリ働き、帰りは終電や会社に寝泊まりが当たり前だったという方ですら、この1~3時間毎の授乳は体力的に一番しんどいとおっしゃります。
また、最初の1か月くらいは奥様の乳首が十分柔らかくなっていません。その結果、赤ちゃんに吸われる度に乳首に激痛が走ったり、引っ張られすぎて乳首が切れ、出血しながらも授乳をするという話も頻繁に聞きます。
さらに、ようやく夜の授乳の感覚が少し空いたと思ったら、夜泣きが始まる時期に突入します。(当然個人差はありますが。)夜に突然大声で赤ちゃんが泣きだし、抱っこしても授乳しても一向に泣き止まないのが夜泣きです。奥様の体は日夜の頻繁な授乳による腰痛や肩こり、そして睡眠不足でボロボロなのに、何とか泣き止ませようと夜中赤ちゃんをずーっと抱っこすることになるのです。これは、健康な成人男性でも非常にしんどい事です。
② 精神的危機
まず、「育児への不安」が挙げられます。自分で産んだ赤ん坊とはいえ、赤ちゃんが何を欲しているのかを理解するには数か月かかります。赤ちゃんがどうして泣いているのか分からない。お腹がすいているのか、眠いのか、暑いのか、寒いのか、もしかしてどこかが痛いのか…?このような困惑が24時間毎日続くのです。
そして、もし奥様の母乳がうまく出ない場合、日本に昔から根付いている「母乳神話」に苦しまれるかもしれません。「母親=母乳で育てるのが当たり前」という既成概念が強い日本では、母乳がうまく出ないと母親失格のような気になってしまい、「子供に申し訳ない…」と悩む方が多いようです。男性から見ると「たかが母乳」と思うかもしれません。しかし、「母親の母乳を飲みながら、赤ちゃんが幸せそうに眠りにつく光景」を育児の理想イメージとして思い描かれている方にとっては、母乳が出ないのは本当に苦しいようなのです。
何よりも精神的につらいのが、自分の時間が皆無になるという事ではないでしょうか。ご主人はお子さんが生まれても、朝今までと同じように家を出て、車内で好きな音楽を聞いたり、ランチには会社の同僚と食べたい物を食べに行き、仕事終わりには居酒屋で飲むという時間を設ける事ができるでしょう。しかし、奥様は違います。赤ちゃんに起こされるので自分の起きたいときに起きられない、赤ちゃんが寝なければ寝たい時に眠れない、授乳や寝かしつけに時間がとられるため食べたい時に食べられない、容易に買い物にすら行けないため食べたい物も食べられない…。このような生活がずっと続くのです。自由を奪われるというのは本当につらいものです。しかし、世間からは「母親になったんだから、自分の事は二の次で当たり前」というプレッシャーがかけられます。男性には自由があるのに…
③ 社会的危機
最後のダメ押しが社会的危機です。ご主人はお子さんが産まれても、交友関係は変わりませんよね?しかし、奥様は違います。小さいお子さんを連れての遠出は難しいので、行動範囲が限られます。よって、これまで仲の良かった学生時代からの友達と疎遠になってしまう事が起きます。(相手のお友達が独身の方やお子さんがいない方ですと尚更です。)代わりに、近所のママ友達と交友を持とうとします。そこで気の合う方が見つかればいいのですが、大人になると心を許して気軽に話せる友達が作りづらくなる傾向にありますので、いいママ友と出会えるかは運も大きいです。そこでいいお友達が見つからなければ、奥様は孤立化するリスクがあるのです。
また、復職を考えている方にとっては、「会社に戻って自分の居場所はあるのだろうか」「保育園は見つかるだろうか」「本当に両立できるのだろうか」という不安に悩まされます。実際、働きたくても預けられる場所がなく、泣く泣く復帰を諦めるママさんが多いというニュースはとても頻繁に目にしますよね。仮に保育園が見つかって職しても、やりたい仕事ができない、子供の発熱などで会社に迷惑をかけてしまう等の理由から、退職される方もいらっしゃいます。
日本はまだまだお母さんに厳しい国です。育児の責任は全て母親に向けられ、一人で抱え込まなくてはいけない状況にあるのです。
奥様の体と心の負担を減らせるのはご主人です。奥様の心の叫びを軽視せず、しっかりと聴き、夫婦で一緒に解決するという気持ちを持って、育児に積極的に関わっていきましょう。